​出産育児環境研究会

 

DVD「みんなのお産」英語版インタビュー    きくちさかえ

             インタビュアー 吉村光弘(響気整体)

 

 

2014年度に刊行された『みんなのお産』DVDブック(現代書館)が、装い新たに『Childbirth & Living in the Era after the Great East Japan Earthquake』として英語版DVDでリリースされた。

その発表を記念してDVDブックの制作者のきくちさかえさんにインタビューした。

 

自らの出産を契機に、お産の取材と研究を進める一方で、長年マタニティ・クラスやマタニティ・ヨーガクラスの指導にあたってきた、きくちさかえさん。

 

世界各国のお産事情を取材し、著作や論文を発表。妊娠・出産に関する著書や訳書もある。「出産育児環境研究会」を主催する一方で、写真家として個展やグループ展を行うなど、アーティストとしての顔も持つ。

 

現在は大学講師のかたわら、八ヶ岳山麓で暮らし、ヨガ教室を主宰、薪を割り、野菜を作る。福島県に通って研究を続け、ワークショップや写真の撮影のために全国を旅する。その感性は、どこにも所属しない「暮らしのアーティスト」といえるだろう。

 

災害時の希望として伝えられた「誕生」

吉村光弘(以下、吉村):2017年春に、『みんなのお産』が英語版DVDとしてリリースされました。英語版のタイトルは『Childbirth & Living in the Era after the Great East Japan Earthquake』です。

 

きくちさかえ(以下きくち):これは2014年に作成した「みんなのお産」DVDブックの英語版です。東日本大震災のあとに、日本の出産の現状について39人の出産関係の方々にインタビューし、まとめたものです。

 

英語版を作成したのは、日本の出産状況を海外の方々に知っていただきたいと思ったからですが、とりわけ震災の時の経験を伝えたいと思いました。大災害の中でも懸命に生まれてくる命がありました。

 

2000年代に入ってから出産は少子化、出産高齢化、生殖医療の台頭など、それまでの状況とは異なってきました。子どもの生まれ方も、社会の変化と密接に関わっています。インタビューをさせていただいた方々は、出産当事者、助産師、産婦人科医、研究者などで、被災地の方々の声も入っています。

 

吉村:インタビューした一人、哲学者の長谷川宏さんも話されていますが、このDVDの底辺にあるメッセージとして「希望」みたいなものを、きくちさんは見出そうとしていますよね。

 

きくち:長谷川さんはDVDの中で「大災害のような出来事の中で、子どもの誕生は希望だということがよくわかる」とおっしゃっています。私自身、DVDを作成したきっかけは東日本大震災です。

 

毎日暗いニュースばかりでしたが、いくつか避難所や被災地で赤ちゃんが生まれたというニュースがありました。それは明るいニュースとしてお茶の間に流れたのです。

 

それまで私はお産の研究をし、何十人もの赤ちゃんが分娩室で生まれるのを見てきましたが、お産が単に家族的な喜びとしてではなく、人々に希望を与えることができるものなのだと改めて思いました。

 

私にとってお産は「日の出」のイメージです。朝早く起きて日の出を見ると、すごくワクワクした気持ちになる。陽が昇り、今日も一日が始まり、どこかで赤ちゃんが生まれていると考えると次につながる未来を感じることができます。

赤ちゃんは生まれてくるタイミングを見計らっている?

吉村:DVD『みんなのお産』には二人の助産師さんが、震災直後のお産の様子をお話されています。電気もなく、電話もつながらない、医療設備が使えないような過酷な状況で、それでも周囲の人たちの協力があって無事に生まれている。

 

きくち:DVDには仙台市と石巻市の助産師さんに登場していただきました。その後、宮城県の保健師と救急救命士にもインタビューをして、共同研究をしましたが、それらのケースも無事に生まれていました。

 

吉村:問題はなかったのですか。

 

きくち:大震災では、不幸にも津波で流された妊婦さんはいらしたかもしれませんが、例えば電源が喪失して帝王切開が出来なくなって危険な状況に陥ったなど、大きな問題が起こったという報告はなされていません。もちろん被災地の迅速な救急医療体制によるところが大きかったと思います。

 

災害時の出産の逸話として、モザンビークの話があります。モザンビークは、何回か洪水に見舞われているのですが、津波と同様に車のアクセスが不能になります。大地が水浸しになって、電気や水道が不通になるような状況の中で、実際にバオバブの木の上で子どもが生まれたり、避難した家屋の屋根の上で子どもが生まれています。

 

非常時にはこうした状況が起こりうる。なにも木や屋根の上で生まれなくてもと思いますが、結果的に無事であったことがニュースになって伝わってきています。もしかしたら危険な状態になった母子はいたのかもしれませんが、無事だった子どもは誕生するタイミングを見計らっているのではないかと思いたくなってしまうほどです。本来、人間は動物ですから野生性は残っているはずですが、現代社会の中では隠されています。そうした能力が非常時には発揮されると考えることもできるのではないでしょうか。

多様な出産のあり方と助産師によるケア

吉村:一方で、DVDでは少子化や出産の高齢化、また女性たちが妊娠や出産がしにくい身体になっている状況も語られています。

 

きくち:実際にそうした傾向に注目が集まっています。DVDには開業の助産師さんが何人か登場していますが、助産所での出産は年々減少しています。今は様々な出産の選択肢がありますが、そうした多様な出産のあり方を社会が支え、一人一人が手厚いケアを受けられるしくみになればと思います。

 

日本には助産師というお産を支える力強いプロフェッショナルがいますから、多くの女性たちが助産師に支えられた妊娠・出産・産後のケアを通じて、継続的なケアが受けられるようになることが望まれます。

 

どのような妊娠・出産の形態であっても、支援してくれる人は手を伸ばせば身近に存在しています。援助を求めて、マイ助産師やマイドクターを見つけてみてはいかがでしょうか。そうした出会いによって、お産がより楽しみになり、産後はからだも心ももっと楽になると思います。

 

DVDの最後に、ドイツのシーヘンフューベル医師が語っていますが、出産を考えることは人類そのもののあり方について考えることでもあります。どのように生まれるかは個人的なことである一方で、非常に社会的な事柄でもあるのです。

 

吉村:ありがとうございました。

                          (2018年1月7日 掲載)